2022-04-09

買ったときの箱を持ちながらヨドバシカメラのレジに「あのう…」と声をかけると、店員さんは手帳に挟んでいるモノクロでコピーした周辺の地図を取り出して、修理のカウンターはこの建物を出て、隣の隣の2階ですね、とボールペンで指してくれた。新宿のこのあたり一帯はヨドバシカメラの街という感じで、隣の建物もヨドバシカメラで、その隣の建物もヨドバシカメラだ。1階はいまどきフィルムの現像を取り扱っているコーナーのようで、誰もいない。つきあたりの細い階段を静かに昇ると、これもまたがらんとしたフロアの隅に、修理の受付を担当する年配の店員さんが、ぽつんとひとりで立っていた。落ち着いた声で、どうされましたかと尋ねられたので、このワイヤレスイヤホンの左のボタンが触ってないのに反応して困ってましてと話すと、医者のカルテよろしくサッと伝票を取り出して病状を書き留めていく。ボールペンが走る音。ふたりしかいないフロアに、ヨドバシカメラの全館で通して放送されていると思われる店内のBGMが静かに流れていて、死後の世界って、もしかするとヨドバシカメラの修理のカウンターみたいなところなのかもしれないなと思いながら、店員さんの筆跡を眺めていた。